グリセミック指数(GI値)とは?健康的な食生活のための活用術
GI値(グリセミックインデックス)の基礎知識
「GI値」とは、Glycemic Index(グリセミックインデックス) の略で、食品が食後の血糖値にどのくらい影響を与えるかを数値で示した指標です。これは、食品に含まれる糖質が体内でブドウ糖に変わり、血液中に吸収されるスピードと程度を数値化したものと言えます。
GI値は、炭水化物(糖質)50gを含む食品を摂取した場合の血糖値上昇度合いを、同じ炭水化物量(50g)のブドウ糖(または白米ごはん)を基準(GI値100)として比較する指標です。
食品はGI値によって、以下の3つに分類されます。
- 高GI食品:GI値が70以上で、血糖値を急激に上昇させる食品。
- 中GI食品:GI値が56~69で、血糖値の上昇が中程度の食品。
- 低GI食品:GI値が55以下で、血糖値の上昇が緩やかな食品。
GI値が健康に重要な理由:血糖値とインスリンの関わり
私たちが食事をすると、食べ物に含まれる糖質はブドウ糖として血液中に入り、血糖値が上昇 します。健康な体では、膵臓から「インスリン」というホルモンが分泌され、このブドウ糖を体の様々な細胞に運び、血糖値を適切な範囲に保ちます。インスリンは、血糖値を下げるだけでなく、脂肪の合成を高め、脂肪の分解を抑制する作用 も持っています。
ところが、高GI食品を食べると、糖質の吸収が早く、血糖値が急激に上昇します。これにより、膵臓は血糖値を下げようと大量のインスリンを分泌 します。急激に分泌されたインスリンによって血糖値が今度は急降下し、空腹感や疲労感、集中力の低下などを引き起こすことがあります。この食後の急激な血糖上昇は「グルコーススパイク」と呼ばれ、動脈硬化の原因にもなると考えられています。
このような血糖値の急激な変動が頻繁に起こると、膵臓のインスリンを出す細胞が疲弊したり、インスリンの働きが悪くなったりする原因となり、血糖値が高い状態が慢性化しやすくなります。これが続くと、糖尿病になるリスクが高まる と考えられています。また、過剰なインスリン分泌は、体脂肪の蓄積を誘発し、肥満の原因 にもなり得ます。
一方、低GI食品は消化吸収がゆっくりで、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。これにより、血糖値が安定しやすくなり、インスリンの分泌量も安定するため、糖尿病や肥満のリスクを軽減することが期待できます。世界保健機関(WHO)も、低GI食品が過体重、肥満、2型糖尿病の発症リスクを低減させる可能性を報告しています。
身近な食品のGI値とGL値
身近な食品のGI値の例をいくつか見てみましょう。
高GI食品(70以上)
- 白パン、白米、もち、せんべい、じゃがいも、さといも、にんじん、練乳、コーンフレーク、ドーナッツ など
中GI食品(56-69)
- オートミール、ライ麦パン、玄米、さつまいも、かぼちゃ、パイナップル、柿、アイスクリーム、ソフトドリンク、はちみつ など
低GI食品(55以下)
- 全粒粉パン、そば、スパゲッティ、押し麦、春雨、りんご、いちご、メロン、葉物野菜、ブロッコリー、ピーマン、きのこ類、豆類、牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、肉類、魚介類 など
「肉や魚はGI値が高いのでは?」と思われがちですが、実は低GI食品です。また、「低GI=低カロリー」と思われがちですが、カロリーとGI値は直接的な関係はありません。
GL値(グリセミックロード)とは?
GI値には、実際に食べる量(1回分の食事量)を考慮していないという「落とし穴」があります。そこで、普段食べる量を踏まえて数値化した「GL値(Glycemic Load:グリセミックロード)」という考え方が登場しました。GL値は以下の式で求められます。
GL値 = 食品に含まれる炭水化物の量(g)× GI値 ÷ 100
GL値は10以下の食品が「低GL」、11~19が「中GL」、20以上が「高GL」と定義されています。GL値を考慮すると、GI値では中・低に該当する食品でも、カレーライスやパスタ、アイスクリームなど、一度に食べる量が多いと高GL食品に該当する ことがあります。そのため、GI値だけでなくGL値も参考にすることで、「血糖値が上がりにくい食べ方」や「太りにくい食べ方」をより深く追求できます。ただし、GL値もあくまで参考値であり、過剰に固執せず、食事全体のバランス を見ることが大切です。
GI値を活用した食生活のヒント
GI値が低い食品ばかりを食べるのは難しいかもしれません。しかし、工夫次第で高GI食品を食べる時でも血糖値の急激な上昇を抑えることができます。
低GI食品を選ぶポイント
- デンプン質が少ないものを選ぶ:デンプン質は糖質が多く含まれるため、少ないものを選ぶと良いでしょう。
- 食物繊維が豊富なものを選ぶ:食物繊維は糖質の消化吸収を緩やかにしてくれるため、血糖値の急上昇を防ぐ効果が期待できます。野菜、きのこ類、海藻類、豆類などがこれにあたります。食物繊維の積極的な摂取は2型糖尿病の血糖コントロールに有効とされています。
- 穀物は精製されていないものを選ぶ:白米よりも玄米、白いパンよりも全粒粉パンのように、精製度が低い茶色の穀物を選ぶとGI値が低くなります。
高GI食品を食べる際の工夫
- 一度に大量の炭水化物を摂らない:高GI食品に限らず、炭水化物の量を摂り過ぎると血糖値が急上昇しやすいため、適量を心がけましょう。
- 食物繊維が豊富な食品を一緒に摂る:食事の最初に野菜などを食べる「ベジタブルファースト」も有効です。水溶性食物繊維は糖を包み込み、吸収を遅らせることで血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。
- よく噛んで食べる:よく噛むことで消化吸収がゆっくりになり、血糖値の上昇が穏やかになります。満腹感も得られやすくなり、炭水化物の摂り過ぎを防ぐ効果も期待できます。
- 酸味のある食品を取り入れる:酢やレモン汁などの酸味は、血糖値の上昇を緩やかにする可能性があります。酢の物(海藻入りは食物繊維も豊富でおすすめ)などを食事に取り入れると良いでしょう。
特に、レモン果汁については、食前に摂取することで食後の高血糖を抑制する効果がヒト試験で確認されています。これはレモンに含まれるクエン酸やポリフェノールが関与している可能性が示唆されています。
酢についても、酢の物やピクルスなどを食事に取り入れることで血糖値の上昇を抑える効果があるとされています - 食後に軽い運動をする:食後、特に血糖値が上がり始めるタイミングで散歩などの軽い運動をすることで、ブドウ糖が筋肉に取り込まれやすくなり、血糖値の上昇を抑える助けになります。
- 調理法を工夫する:油で炒めることで糖質の吸収を緩やかにする工夫もあります。ただし、油のカロリーには注意が必要です。また、米飯と副食の組み合わせ方(例:納豆やとろろ芋など粘性のある食品との組み合わせ)によっても食事全体のGI値を調整できる可能性があります。
糖尿病管理におけるGI値と食事療法の有効性
日本糖尿病学会は、1型糖尿病および2型糖尿病の血糖コントロールのために食事療法を強く推奨 しており、管理栄養士による栄養療法の教育が有効であると述べています。食事習慣に対する介入は、血糖コントロールに有効であり、有害事象が生じる可能性はほぼないと考えられています。
特に、2型糖尿病の血糖コントロールのために低GI食は有効である とされており、複数のメタ解析で低GI/GLの食事パターンがHbA1c値のほか、空腹時血糖値や悪玉コレステロール(LDLコレステロール)、中性脂肪、体重、BMIの改善をもたらすことが示されています。
血糖スパイクの大きな方にはGI値を考慮した食品選び がいいと思います。
GI値以外にも、過体重・肥満を伴う2型糖尿病の血糖コントロールのためにはエネルギー摂取量の制限 が推奨され、2型糖尿病の血糖コントロールのために短期間であれば炭水化物制限も有効 であるとされています。特に、日本人2型糖尿病患者においては、約130g/日の炭水化物制限で有害事象なくHbA1cの改善が認められています。
まとめ
GI値は、食品が血糖値に与える影響を知る上で非常に便利な指標です。全ての食事を低GIにするのは難しくても、ご紹介したような選び方や食べ方の工夫を取り入れることで、食後の血糖値の安定に繋がり、糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防・管理に役立ちます。重要なのは、食品を「抜く」ことではなく「選ぶ」ことであり、バランスの取れた食生活を意識することが健康維持の鍵となります。