もやしは、一般的に安価で手軽に入手できる食材でありながら、「もやしには栄養がない」という認識は誤解であり、実際には多くの栄養素を含んでいます。水分が大部分を占めるものの(約95%)、残りの部分には多様な栄養素が含まれており、低カロリーでありながら栄養価が高い健康的な野菜として注目されています。
もやしの主な栄養成分(可食部100g当たり)
「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に基づくと、緑豆もやし100gあたりの主な栄養成分は以下の通りです。
- カルシウム: 23 mg
- 鉄: 0.5 mg
- カリウム: 160 mg
- β-カロテン当量: (Tr) µg (微量)
- ビタミンB1: 0.09 mg
- ビタミンB2: 0.07 mg
- ビタミンC: 5 mg
- 食物繊維: 2.3 g
また、別の資料では、緑豆もやし1袋(200g)あたりの栄養成分として、エネルギー30kcal、タンパク質3.6g、脂質0.2g、炭水化物4.8g、カリウム160mg、カルシウム18mg、鉄0.4mg、ビタミンB1 0.08mg、ビタミンB2 0.10mg、葉酸72µg、ビタミンC 14mg、食物繊維2.6g、アスパラギン酸690mgが挙げられています。
もやしに含まれる主な栄養素とその健康効果
もやしには、発芽することで豆にはなかった新たな栄養素が生成されるという特徴があります。特に以下の栄養素が豊富です。
- ビタミンC:
- 抗酸化作用があり、免疫力を高め、疲労回復や美肌効果が期待できます。
- コラーゲンの生成を促進し、肌のトラブルを防ぎ美肌効果を期待できます。また、鉄の吸収を高めて貧血予防にも役立ちます。
- ストレスや喫煙、過剰なアルコール摂取で体内で消費されやすいです。
- 大豆もやしの場合、種子のビタミンCは100gあたり1mg以下ですが、発芽後には約5倍の5mgに増加します。
- 葉酸:
- 赤血球の生成に必須な栄養素であり、貧血予防に効果的です。
- 特に妊娠中の女性や成長期の子どもに必要な栄養素で、胎児の発育を助けます。
- カリウム:
- 体内の余分なナトリウムを排出し、むくみ予防や血圧の調整に役立ちます。
- 高血圧予防に必須といわれ、ラーメンや味噌汁など塩分の多い料理と組み合わせるのがおすすめです。
- 食物繊維:
- 腸内環境を整える働きがあり、便秘の解消や予防、満腹感の向上に寄与します。
- 現代の食生活で不足しがちな栄養素であり、意識的な摂取が推奨されます。
- 免疫細胞に働きかけて免疫力を高めたり、血糖値上昇を抑制したりする働きもあります。
- アスパラギン酸(アミノ酸):
- 疲労回復に効果があるアミノ酸の一種で、新陳代謝を活発にし、疲労回復やスタミナ増強をサポートします。
- アスパラガスよりも緑豆もやし100gの方が多く含まれており、効率的に摂取できます。
- カルシウム:
- 骨や歯の健康をサポートしますが、もやしの含有量は少なめです。乳製品や小魚などと組み合わせると効果的です。
- 神経や筋肉の興奮を抑える作用もあります。
- タンパク質:
- 特に大豆もやしに豊富に含まれ、筋肉や体組織の修復に寄与します。
- 消化酵素(アミラーゼ):
- もやしは豆から発芽したものであり、豆にはない消化酵素であるアミラーゼが含まれており、胃腸を優しく保護し、消化吸収を助ける効果があります。疲労回復や食欲増進にも効果的です。
- ポリフェノール:
- 意外にももやしに豊富に含まれており、コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化や心筋梗塞の予防にも効果があります。
- 大豆もやしにはイソフラボンが含まれ、女性ホルモンに似た働きを持ち、美肌や骨粗しょう症予防、更年期症状の改善に役立つと期待されます。
もやしの種類ごとの栄養素の違いと特徴
もやしには主に3種類があり、それぞれ栄養価や味、食感が異なります。
- 緑豆もやし:
- 最も多く流通している一般的なもやしです。
- 芯がやや太めで食べ応えがあり、クセがなく淡泊な味わいが特徴です。
- ビタミンCや食物繊維、カリウムが豊富に含まれます。
- サラダ、炒め物、鍋物など、あらゆる料理に万能に使えます。
- 大豆もやし:
- 大豆を発芽させたもやしで、他のもやしよりも太くて歯ごたえがあり、豆の部分まで食べられます。
- タンパク質やビタミンB群、葉酸、カルシウム、カリウム、マグネシウムが豊富で、栄養素によっては緑豆もやしの2倍以上含まれるものもあります。
- 女性に嬉しい大豆イソフラボンを含みます。
- ナムルやスープ、鍋物など、火がしっかり通る料理に向いています。豆の部分が硬く火が通りにくいため、緑豆もやしよりも加熱時間を長めにとる必要があります。
- サラダコスモでは「GABA子大豆もやし」として、血圧高めの方の血圧を降下させる作用があると報告されているGABAを含む機能性表示食品も提供しています。
- ブラックマッペもやし(黒豆もやし):
- インド原産の黒い豆「ブラックマッペ」を原料とし、黒豆もやしとも呼ばれます。
- 白っぽくて細長く、シャキシャキした歯応えがあり、ほのかな甘みが特徴です。
- 3種類のもやしの中でビタミンCの含有率が一番高いとされます。
- ラーメンや焼きそばの具、おひたしなど、麺類との相性が良いです。
調理による栄養素の損失と効率的な摂取方法
もやしは加熱料理を前提として生産されており、加熱することで消化しやすくなり、青臭さも取れて美味しく食べられます。しかし、水溶性ビタミンであるビタミンCなどは熱に弱く、調理法によって残存率が異なります。
- ビタミンCの残存率:
- 生のもやしの 総ビタミンC は22.22 mg%で、 有効ビタミンC は17.08 mg%です。
mg%は、「食品100g中に含まれる成分の量(mg)」を表す、やや古い表現です - 水からゆでる(推奨調理時間6分): 総ビタミンCの残存率は約45%、有効ビタミンCの残存率は約19.5%と、他の調理法と比較して最も低い傾向にあります。
- 沸騰水でゆでる(推奨調理時間0.5分): 総ビタミンCの残存率は約70%、有効ビタミンCの残存率は約43%です。
- 沸騰食塩水でゆでる(推奨調理時間0.5分、0.5%食塩使用): 総ビタミンCの残存率は約71%、有効ビタミンCの残存率は約38%です。低食塩濃度ではビタミンC残存率に有意な差はみられないと報告されています。
- 炒める(推奨調理時間1分): 総ビタミンCの残存率は約66%、有効ビタミンCの残存率は約45%です。総ビタミンCの残存率が最も高い調理法であり、他の文献でも炒める方が残存率が高い傾向が示されています。
- 生のもやしの 総ビタミンC は22.22 mg%で、 有効ビタミンC は17.08 mg%です。
- 効率的に栄養素を摂取するポイント:
- 短時間調理: ビタミンCは熱に弱いため、さっと茹でる、蒸す、または強火で短時間炒めるのが最適です。炒め物にする場合は、強火で1分以内が目安です。
- 電子レンジ調理: 茹でる場合は、お湯で茹でるよりもレンジ加熱の方が栄養素を逃がしにくいとされます。短時間で加熱でき、栄養の損失を少なくできます。
- スープや汁物: ビタミンCや葉酸などの水溶性ビタミンは煮込みすぎると流出してしまいます。そのため、スープや汁物に入れる際は、下茹ではせず、料理完成直前に加えるのがおすすめです。
- 他の食材との組み合わせ: タンパク質や脂質が少ないため、鶏肉、卵、豚肉、ツナ、大豆製品などと一緒に調理すると栄養バランスが整います。ビタミンCはビタミンEと一緒に摂取することで相乗効果が期待でき、レバニラ炒めにもやしを加えるといった工夫も有効です。
- レモンとの組み合わせ: レモンに含まれるクエン酸ともやしのアスパラギン酸が合わさることで、疲労回復効果や美肌効果の相乗効果が期待できます。
保存方法
もやしは価格的にも栄養的にも優れていますが、日持ちしにくいという欠点があります。鮮度が落ちやすく、ビタミンCの目減りが早いため、購入後はできるだけ早く食べ切るのが理想です。
- 冷蔵保存:
- もやしが呼吸できるよう、密封せずに冷蔵庫の冷蔵室で保存します。最適な保存温度は0~5℃です。
- 開封済みのもやしは、タッパーに水を張り、もやしを浸して冷蔵庫で保存すると、水を毎日交換することで3~7日程度日持ちします。ただし、この方法だと水にビタミンCが流れ出てしまうため、保存期間は短い方が良いとされます。
- 調理前に洗いすぎると栄養素が流出するため、においが気になるときにさっと洗う程度で十分です。
- 冷凍保存:
- もやしをすぐに食べないことが分かっている場合は冷凍保存が可能です。袋に数か所穴を開けるか、水気をよく切ってから食品用保存袋に入れて冷凍します。
- 冷凍すると2週間から1ヶ月程度日持ちしますが、水分が多いせいでシャキシャキ感が失われがちです。解凍せずにそのまま炒め物や汁物に入れるのがおすすめです。
参考
・川村信一郎・翁長君代・新垣博子・外間ゆき・尚弘子・友利知子(2012).緑豆もやしの調理によるビタミンCの損失.琉球大学農家政工学部学術報告, No.9, 322-326.
https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/record/2006860/files/No9p322.pdf
・もやし生産者協会
https://www.moyashi.or.jp/nutrition/