脱水症に注意

栄養関係

補水液の活用:脱水症予防と経口補水液の基礎知識

1. 脱水症とは

1.1 脱水症の定義と原因

脱水症とは、体内の水分だけでなく、電解質(塩分など)も同時に失われた状態です。
人体の半分以上は水分(体液)で構成されており、この体液は水と電解質でできています。

体重の2%以上の体液が失われると脱水症に陥るとされています。
発熱、発汗、下痢、嘔吐、高温環境下での作業や激しい運動、内分泌疾患、電解質代謝異常症、腎疾患、出血などが主な原因です。

1.2 脱水症になりやすい人

特に乳幼児と高齢者は、体内の水分量や体温調節機能、腎機能が未熟または低下しているため、脱水症になりやすいとされています。
高齢者は筋肉量の減少により体内に体液を貯えにくくなっていることも要因です。

1.3 脱水症のリスク

脱水は熱中症のリスクを高め、重症化すると脳梗塞や心筋梗塞、せん妄などを引き起こし、生命に関わる危険があります。


2. 脱水症のチェック方法とサイン

2.1 簡易チェック方法

  • 皮膚をつまんでみる:皮膚がつままれた形から3秒以上戻らなかったら脱水の疑いあり。
  • 親指の爪の先を押してみる:赤みが戻るのが3秒以上遅ければ疑わしい。
  • 脇の下が乾いている、口の中や唇が乾燥している:これも脱水のサインです。

2.2 初期症状と注意点

初期の自覚症状が少ない場合があり、特に低張性脱水症では「のどの渇きや口の中の乾燥がない」ため、本人も周囲も見落としがちです。

2.3 乳幼児の脱水症サイン

発熱、下痢、嘔吐の症状が見られる場合、以下のような重症化のサインがあれば速やかに小児科を受診してください。

  • 39℃以上の熱
  • 目が落ちくぼんでいる
  • 1日6回以上の多量の下痢
  • 機嫌が悪い、ぼんやりして眠りがち
  • 嘔吐が続いている
  • 顔色が悪い、泣いても涙が出ない
  • 尿量が減る、尿の色が非常に濃い
  • 皮膚、口、舌が乾燥している

3. 経口補水療法(ORT)と経口補水液(ORS)

3.1 経口補水療法(ORT)とは

経口補水療法(ORT)は、水にナトリウムやカリウムなどの電解質と糖分を一定の割合で配合した経口補水液(ORS)を用いて、脱水症状の予防と治療を行う方法です。

3.2 作用機序と有用性

グルコースによってナトリウムの取り込みが促進され、腸からの水分吸収が高まります。
コレラによる脱水症の治療法として注目され、「20世紀最大の医学上の進歩」とも称されています。

3.3 経口補水液の種類と家庭での作り方

市販の経口補水液としてOS-1シリーズ(液体・ゼリー・パウダー・リンゴ風味など)があります。
家庭でも「水1リットルに対し、砂糖40g(大さじ4と1/2杯)、塩3g(小さじ1/2杯)」を混ぜて簡易経口補水液を作成可能です。


4. スポーツドリンクと経口補水液の違いと使い分け

4.1 成分の違い

  • スポーツドリンク:ミネラル分が少なく、炭水化物(糖分)が多い。
  • 経口補水液:ミネラル分が多く、炭水化物が少なめ。WHO基準の組成に近い。

4.2 使い分けの目安

  • 通常の水分補給:お茶や水
  • 1時間以上の運動、大量発汗:スポーツドリンクが推奨されます。
  • 脱水や熱中症が疑われる場合:経口補水液がおすすめです。スポーツドリンクよりも電解質が多く、糖分が少なめで素早く吸収されます。

4.3 注意点

  • スポーツドリンクの飲み過ぎ:糖分過剰による高血糖症状(ペットボトル症候群)のリスク。
  • 経口補水液の過剰摂取:高血圧や腎機能低下の方には注意が必要です。
  • 乳幼児の脱水時:スポーツドリンクは低ナトリウム血症や水中毒のリスクがあるため避けるべきです。

    ※スポーツドリンクは「味(おいしさ)」を重視し、糖分が多くナトリウムが少ない設計になっています。乳幼児が大量に飲むと、水分は補給できてもナトリウムが十分に補給されず、体液が薄まって低ナトリウム血症や水中毒になる危険があります。

    乳幼児の脱水治療には、ナトリウムやカリウムなどの電解質が適切に配合された「経口補水液(ORS)」が推奨されます。

5. 脱水症の予防

5.1 規則正しい食生活

飲料水だけでなく、食事や代謝水からも水分を摂取できます。きちんと食事をとることが脱水症対策につながります。

5.2 こまめな水分補給

  • 1日複数回に分けて水分摂取を行う。

    体重1kgあたり30mlで計算する方法もあり、体重によって異なります。
    例:体重50kgの場合 → 50 × 30 = 1,500ml(食事+飲み物の合計)

    ただし、食事から約600ml取れる場合、飲み物は900ml程度が目安となります。

    これはあくまでも目安なので、発熱時、発汗時などで必要水分量は変わります。

    ※あくまでも目安です。
  • 乳児(0~1歳未満)
    • 体重1kgあたり約125~150ml/日
    • 例:体重8kgの場合 → 8 × 125~150 = 1,000~1,200ml/日
  • 幼児(1~6歳)
    • 体重1kgあたり約100ml/日
    • 例:体重14kgの場合 → 14 × 100 = 1,400ml/日

      ◎この水分量には、母乳・ミルク・食事・飲み物などすべての水分が含まれます
      一度に大量に飲ませるのではなく、こまめに少しずつ与えることが大切です

5.3 水分補給のタイミング

  • 寝る前後、入浴前後、運動前・中・後、飲酒後
  • 環境整備:暑さを避け、通気性の良い衣類を選ぶ。
  • 体調管理:体調が悪いときは無理をせず、こまめに水分を摂る。
  • 海外渡航時:長時間同じ姿勢でいると血栓症のリスクが高まるため、アルコール摂取を控え、適切な水分補給を心がける。

6. まとめ

脱水症は単なる水不足ではなく、電解質の喪失を伴う深刻な状態です。特に乳幼児や高齢者は重症化しやすいため、規則正しい食生活と「のどが渇く前」のこまめな水分・塩分補給が不可欠です。

脱水症状が見られた場合は経口補水液が効果的ですが、スポーツドリンクとの使い分けや基礎疾患の有無に応じた注意が必要です。自力での飲水が困難な場合は、速やかに医療機関を受診してください。